一人称の過去
歴史記述における〈私〉
トラヴェルソ・エンツォ 著
宇京賴三 訳
シリーズ : ポイエーシス叢書
歴史は徐々に一人称で書かれるようになってきた。歴史家は過去を再構成することに満足できなくなり、解釈するようになる。それ以来、自身を語るようになった。ジャブロンカやアルティエールの作品によって特徴づけられるハイブリッドな新しいジャンルがかたちづくられる。かれらは独自の調査を文学的なスタイルで物語に仕立て上げる。逆にモディアーノ、ゼーバルトらはノンフィクション小説を作り出す。この「自分」の突出はより深い認識論的な問題を喚起する。本書でトラヴェルソはこの主観主義の創造的可能性、政治的曖昧さ、内在的限界などを問いかけている。
序 章
第1章 三人称で書くこと
第2章 客観性の罠
第3章 歴史的エゴ
第4章 語り手〈私〉の小目録
第5章 方法論
第6章 モデル【:】映画と文学のあいだの歴史
第7章 歴史とフィクション
第8章 現在主義
エンツォ・トラヴェルソ(Enzo Traverso)
1957年、イタリアのガヴィに生まれ、ジェノヴァ大学で現代史を修める。1985-89年、フランス政府給費留学生としてパリに滞在。パリの社会科学高等研究院で、ミシェル・レヴィ教授の指導の下に、社会主義とユダヤ人問題に関する論文で博士号を取得。ナンテール―パリ第10大学の国際現代文献資料館研究員となり、サン・ドゥニ―パリ第8大学や社会科学高等研究院で社会学を講ずる。ピカルディ・ジュール・ヴェルヌ大学教授を経て、現在コーネル大学教授。フランス語で著書論文を発表し、各種の新聞・雑誌に寄稿している。日本語訳に『ユダヤ人とドイツ』『マルクス主義者とユダヤ問題』『アウシュヴィッツと知識人』『全体主義』『左翼のメランコリー』『ヨーロッパの内戦』がある。