イサの氾濫
木村友祐 著
荒ぶる東北の魂、濁音の炸裂
40代になりいよいよ東京での生活に行き詰まりを感じていた将司は、近ごろ頻繁に夢に出てくるようになった叔父の勇雄(イサ)について調べるため、地元八戸にむかった。どこにも居場所のなかった「荒くれ者」イサの孤独と悔しさに自身を重ね、さらに震災後の東北の悔しさをも身に乗り移らせた彼は、ついにイサとなって怒りを爆発させるのだった。第25回三島由紀夫賞候補作。
〈「埋み火」を併録〉
――おめは、生ぎでいいのせ。ニセモノだの、空っぽだの、役(やぐ)立だずだの、そんなものぁどんでもいい。人の目なんが知るが。反省もすな。身勝手でもなんでも、イヤなものはイヤど、思いっきり、叫(さが)べ、叫べ。(「イサの氾濫」)
イサの氾濫
埋み火
イサのその後、そしてあとがき
木村友祐(きむらゆうすけ)
1970年生まれ、青森県八戸市出身。著書に『海猫ツリーハウス』(集英社、2010年〔第33回すばる文学賞受賞作〕)、『聖地Cs』(新潮社、2014年〔第36回野間文芸新人賞候補作〕)がある。本書収録「イサの氾濫」は第25回三島由紀夫賞候補作(2012年)。2013年、フェスティバル/トーキョー13で初演された演劇プロジェクト「東京ヘテロトピア」(Port Bの高山明氏構成・演出)に参加、東京のアジア系住民の物語を執筆(現在もアプリとなって継続中)。管啓次郎氏の呼びかけで2014年よりはじまった「鉄犬ヘテロトピア文学賞」の選考委員もつとめる。