グレアム・ウォーラスの思想世界
来たるべき共同体論の構想
平石耕 著
産業化、都市化の果て、国家、個人をも関数として組み込み膨張する〈巨大社会〉に対し、現代政治学の祖・ウォーラスはいかに共同体の再構築を図ったのか。現代におけるネオリベラリズム、サンディカリズム、コーポラティズム、そしてシティズンシップを考察する理論枠組となりうる、政治学をはるかに超えたウォーラスの思想的射程を明らかにする。
序 章
I 視座の設定
II 先行研究の状況
III 本書の構成
第一章 初期ウォーラスの社会主義論
I 序
II 初期ウォーラス社会主義論の三つの淵源
1 社会経済的背景
2 精神的背景
3 知的装置としてのアリストテレス
III フェビアンによるマルクス主義批判
1 革命思想とマルクスからの影響
2 革命は望ましいか
3 革命は必然か――価値論の問題
4 ウォーラスによるマルクスやウィックスティードの価値論の評価
IV 経済論
1 三レント理論
2 経済論に対するアリストテレスの影響
3 生き方としての社会主義と「三レント理論」
V 政治論
1 意識改革の是非
2 フェビアンの社会民主主義論
3 ウォーラスに見られる社会民主主義論的理解
4 多数者支配としての社会民主主義論が抱える問題――ウェッブとショウの議論
5 政治論に対するアリストテレスからの影響1――多数者支配の問題
6 政治論に対するアリストテレスからの影響2――民主主義の意義
VI 倫理論
1 政治思想の基盤としての倫理論
2 倫理論におけるアリストテレスからの影響
3 社会性と社会有機体
4 芸術と教育とによる社会性の涵養およびアリストテレスの影響
VII 小括
第二章 ウォーラスの英国史研究と歴史認識
I 序――歴史家としてのウォーラス
II 歴史認識と英国史研究の主題
1 背景としての社会発展論
2 ウォーラスによる社会発展論批判と歴史における人間理念の役割の強調
3 英国史研究における四つの主題
III 福祉の歴史的変遷――救貧法と公教育
1 救貧法
2 公教育
IV 行政・統治組織の歴史的変遷――教区と学務委員会
1 二つのシラバスから窺われるウォーラスの視角
2 教区
3 学務委員会
V 英国における民主化の歴史
1 議論の背景
2 国民的運動としての民主化
3 民主化指導者の精神の在り方
4 プレイスに見る改革家の精神的在り方
VI 小括――ウォーラスにおける英国史研究の意図
第三章 世紀転換点におけるウォーラスとフェビアン
I 序
II ボーア戦争と帝国主義の問題
1 ボーア戦争におけるフェビアン協会の対応
2 ウォーラスの立場
III 教育改革の問題
1 問題の状況
2 フェビアン指導部および多数派の立場
3 ウォーラスの立場
IV 関税改革の問題
1 問題の状況
2 フェビアン多数派の立場
3 ウォーラスの立場
V フェビアン指導部とウォーラスとの思想的亀裂の淵源
1 フェビアン的思考様式――共同体の強調と意識的管理
2 フェビアン的思考様式のもつ欠落――大英帝国の意義に関する二つの理解
VI ウォーラスにおける世界志向的な観点
1 世界の一体化と「世界倫理」の必要性
2 何を「世界倫理」とするべきか
VII 小括
第四章 「巨大社会」のための政治思想の構想
I 序
II 後期ウォーラス思想の理論的枠組
1 「巨大社会」の出現とその問題性
2 合理的人間像とスペンサー的人間像とに対する批判
3 人間性と環境
III 「国内的協働」の実現
1 同意の重要性
2 社会経済問題の位置づけ
3 政治論1――問題の焦点
4 政治論2――代議制民主主義と専門家
5 政治論3――職能団体理論の問題
6 政治論4――ウォーラス自身の政治制度の構想
IV 「世界的協働」の実現に向けて
1 「世界的協働」の必要性
2 国民国家の絶対性に対する批判
3 第一次世界大戦に対する評価
4 大戦後の国際秩序に関する構想
V 思考・判断の問題
1 後期ウォーラス思想における思考論・判断論の背景
2 理論・科学と価値判断との間の問題
3 ウォーラスの思考論・判断論――予備的考察
4 ウォーラスの「思考」の概念
VI 小括
終 章
平石 耕(ひらいし・こう)
1972年生まれ。1996年、早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。2000年、University of Cambridge, M. Phil in Political Thought and Intellectual History修了。2004年、成蹊大学大学院法学政治学研究科博士後期課程修了。政治学博士。早稲田大学政治経済学術院助教(2008-10年)を経て、現在、成蹊大学法学部政治学科准教授。西洋政治思想史専攻。論文に、「現代英国における『能動的シティズンシップ』の理念――D・G・グリーンとB・クリックとを中心として」(「政治思想研究」第9号、2009年)ほか。共著に、『政治の発見3 支える――連帯と再分配の政治学』(齋藤純一編著、風行社、2011年)。