「新文化」3029号(5月1日号)によると、ことしの3月期は書籍の新刊発行点数は7574点(単行本は5389点)で対前年同月比112. 4%(単行本は118. 1%)。しかしながら売上げのほうは書籍・雑誌合計で1945億4000万で対前年比94. 4%。このうち書籍は学習参考書やコミックスのまとめ買いなど消費税増税前の駆け込み需要があったとされるにもかかわらず対前年比で95. 5%、雑誌にいたっては93. 2%(月刊誌94. 3%、週刊誌88. 8%)とさらに低調である。ちなみに書籍の販売部数は8956万冊で対前年比99. 1%。1月からの対前年同期比では97. 2%である。
これはどういうことかと言うと、単行本書籍にかぎって言えば、新刊はふえているにもかかわらず発行部数は1575万冊で対前年同月比100. 7%、一点あたりの発行部数は85. 3%にとどまっている。文庫・新書等の全書籍でみても86. 7%となっており、総じて一点あたりの初版部数を下げて点数をより多く発行する傾向がいちだんと強まったということだろう。通常の年でも3月は年度末ということもあり、発行点数が相当ふえるのであるから、ことしの12%以上の急増は消費税導入前の駆け込み製作といった事情もあるだろう。印刷所の話では4月になってからの入稿がかなり減ってきているらしいので、前倒し製作の現実は否定できない。しかしながら、実際はそうした出版界の思惑とは裏腹に読者は消費税増税前に本を買おうとはしなかったということである。つまり、ひとつには本を買う以前に、インフラやクルマなど高額商品購入による差額の利益を優先したということであり、本などは二の次だったということになる。
ところで一点あたり発行部数の減少はある意味では適正化の方向へ進んでいることも示していると同時に、水増し企画のツケとしての一点あたり売行き部数減という結果でもあるのではないか。
こう考えてくるとネガティヴにならざるをえない昨今の出版界だが、そう暗い面ばかりでもない。つまりは信じられる著者がすくなからず存在することがその最大の可能性をもちつづけていることである。たしかにコアになる読者数が相当数減少していることは否めず、そのことによってせっかくの好著も期待された読者数(販売数)を得られず、著者にも編集者(出版社)にも相応の還元が得られにくくなっているのは事実だが、だからといって利益重視のこれまでの路線から一歩引き下がって考え直していくならば、出版にはまだまだ無尽蔵の可能性が残されていることは否定できないからである。問題はどうやって出版社としての企業運営を成り立たせるだけの方向性をこれからも見出せるかということにかかっているということだ。
世界はますます混迷を深めている。人智を尽くしてこの世界を改善し、平和を実現していくために戦うべき相手、批判すべき対象には事欠かない。この世界を制覇し独善を押しつけようとする勢力がいて、それに批判的に立ち向かおうとする人間がいるかぎり、そしてこういう世界のなかでもみずからの存在、生き方を不断に問う人間がことばを発しようとするかぎり、出版という営為によってそうしたポジティヴな声を実現する活動をつづけることには意味があるし、出版を通じて文化の再生をたえずめざしていくことはことばにかかわる人間としての最小限の矜持でもあるからだ。(2014/5/3)