『出版文化再生――あらためて本の力を考える』を昨年11月末に刊行して、同時に刊行した社史『ある軌跡──未來社60年の記録』とあわせて主要な著者をはじめ、出版関係各社および業界の知り合いに相当数の献本をおこなった。わたしの『出版文化再生』は未來社の最近15年の基本的な考え方を提示しているものとしていわば非公式の記録でありながら出版という営為を通じて実現しようとしてきたことの真意というか意志を明示するものであり、社史という公式の記録文書とともにあわせて読んでもらいたいという願望もあったからである。さいわいこの期待はある程度認めてもらったようである。多くのお礼状や感想などからそう推測しても間違いではないだろうと思えるからである。
そうしたさまざまな感想や激励などのなかに、わたしはひとつ問題があることに気がついた。それは、今回お送りした知り合いのなかにかなりの割合で現役を引退しているひとがふくまれていることにも関連する。わたしのこれまでのつきあいやかかわりの深いひとたちがわたしより上か同年配ということもあって、必然的に定年後のひとが多くなっているのは事実である。そういうひとのなかにはいまでもなんらかのかたちで出版界にかかわりをもっているひともすくなからずいることはいるが、それでもどこか半分は現役を退いたかたちになっている。それはそれでやむをえないのだが、問題はそういう現役を退いたひとたちが、しかもそのほとんどは現役時代に出版界でもそれぞれの立場から貴重な仕事を残してきたひとたちであるにもかかわらず、もはや出版界のことについての関心を失なってしまっているように感じられるひとが何人もいることなのである。これはわたしにとってある種のショックである。
わたしはこの業界から足を洗うことができないという自分の立場上、出版および出版界のことを自分の年齢の問題と重ねあわせて考えてみることはあまりない。あるとしたら、自分の著述のための時間をもっともちたいというぐらいのことで、経営の課題をクリアできないかぎり、現実的にはなかなか厳しい欲求でしかない。それにたいして、退職後、出版の世界に関心をもたなくなったことを表明するひとがわたしの知り合いのなかからも出てきていることに愕然とするのである。営業関係者の場合には、たしかに自分の活動する場が失なわれてしまった以上、どうすることもできないのであるからこの成り行きには納得せざるをえないものがあるのだが、編集者だったひとはどうなのだろう。もちろんこれも編集者として出版業にかかわりをもてなくなった以上、現実的には関心が失なわれていくのは同じことかもしれない。しかし、わたしにはどうしてもその断念の心的しくみが理解できないのである。
こうしてあらためて考えてみると、出版という営為はやはり実業でしかないのか。出版界を去ろうとする人間の話をこのところ何人も見聞きしてきたが、ほとんどが余生の話、趣味の話に終始してうんざりさせられたところである。こうしたところにも勢いのなくなりつつある出版界の現状を見てとるべきなのかもしれないが、いやいや、それだからこそここは頑張りどころなのではないかと思うのである。それこそが『出版文化再生――あらためて本の力を考える』という本を出した理由なのだから。(2012/1/2)
そうしたさまざまな感想や激励などのなかに、わたしはひとつ問題があることに気がついた。それは、今回お送りした知り合いのなかにかなりの割合で現役を引退しているひとがふくまれていることにも関連する。わたしのこれまでのつきあいやかかわりの深いひとたちがわたしより上か同年配ということもあって、必然的に定年後のひとが多くなっているのは事実である。そういうひとのなかにはいまでもなんらかのかたちで出版界にかかわりをもっているひともすくなからずいることはいるが、それでもどこか半分は現役を退いたかたちになっている。それはそれでやむをえないのだが、問題はそういう現役を退いたひとたちが、しかもそのほとんどは現役時代に出版界でもそれぞれの立場から貴重な仕事を残してきたひとたちであるにもかかわらず、もはや出版界のことについての関心を失なってしまっているように感じられるひとが何人もいることなのである。これはわたしにとってある種のショックである。
わたしはこの業界から足を洗うことができないという自分の立場上、出版および出版界のことを自分の年齢の問題と重ねあわせて考えてみることはあまりない。あるとしたら、自分の著述のための時間をもっともちたいというぐらいのことで、経営の課題をクリアできないかぎり、現実的にはなかなか厳しい欲求でしかない。それにたいして、退職後、出版の世界に関心をもたなくなったことを表明するひとがわたしの知り合いのなかからも出てきていることに愕然とするのである。営業関係者の場合には、たしかに自分の活動する場が失なわれてしまった以上、どうすることもできないのであるからこの成り行きには納得せざるをえないものがあるのだが、編集者だったひとはどうなのだろう。もちろんこれも編集者として出版業にかかわりをもてなくなった以上、現実的には関心が失なわれていくのは同じことかもしれない。しかし、わたしにはどうしてもその断念の心的しくみが理解できないのである。
こうしてあらためて考えてみると、出版という営為はやはり実業でしかないのか。出版界を去ろうとする人間の話をこのところ何人も見聞きしてきたが、ほとんどが余生の話、趣味の話に終始してうんざりさせられたところである。こうしたところにも勢いのなくなりつつある出版界の現状を見てとるべきなのかもしれないが、いやいや、それだからこそここは頑張りどころなのではないかと思うのである。それこそが『出版文化再生――あらためて本の力を考える』という本を出した理由なのだから。(2012/1/2)