1 入稿原稿のチェック
(1)ワープロ原稿の場合はまず印刷すること[手順1]
最近は著者からの原稿がワープロソフトによって入力されたかたちで入稿することが多くなった。なかでもマイクロソフトのWordでのものが圧倒的であり、かつてのように一太郎その他のワープロソフトでの原稿はほとんどない状態である。ましてや『出版のためのテキスト実践技法/執筆篇』(2001年)執筆時点ではまだ存在していたワープロ専用機は絶滅したと言っても過言ではない。
そしてかつては印刷された原稿での入稿があたりまえであったが、最近はEメールの発展もあってメールへの添付などのかたちでの入稿も出てきた。雑誌原稿や論集原稿、急ぎの原稿などの場合にはほとんどEメールを介しての入稿がふつうになってきたが、さすがに単行本一冊分ともなると、著者が印刷し、そのプリントを確認したうえで送稿してくれることがいまでも普通である。そうでないと、思いがけないミスにつながりやすいからである。いちおうこうした送稿のスタイルは常識の範疇に入ると思う。
それでも事情があってプリントアウトなしの入稿ということがありうる。その場合、後述するように、オリジナルのかたちを残しておかないと思わぬトラブルに見舞われることがあるので、ファイル処理を始めるまえに印刷しておくのが望ましい。
なお、Wordの原稿はしばしば新しいヴァージョンで書かれたものであることがあるので、そのためにわざわざ編集側がデータを受け取るためだけにヴァージョンアップした高額のソフトを揃えておかなければならないことになるのは不合理である。そのためには Apache Software Foundationが作成し無償で配布しているApache OpenOfficeを導入しておく必要がある。これはMicrosoft Officeに完全対応しているソフトで最新ヴァージョンにたいしてもすぐ対応できるようにヴァージョンアップされている。これを使えばWordで作られた原稿も難なく開けるのである。ちなみにWordにはOpenOffice.org.Writerが対応している。日本語版OpenOfficeの入手先はhttp://www.openoffice.org/ja/download/である。いつでも対応できるようにするために、はやめにダウンロード~インストールしておくことをお奨めする。
ここでわたしが始めようとしているのは、すでに[テキスト実践技法]三部作(『出版のためのテキスト実践技法/執筆篇』2001年、『同/編集篇』2002年、『同/総集篇』2009年、いずれも未來社刊)でくわしく記述した、パソコンを利用しての出版と編集にかんする技術的な諸問題のうち、とりわけ原稿の編集処理、その手順等をあらためて整理し、わかりやすく実践的かつ系統的にマニュアル化しようとするものである。
したがって、理解に必要な最小限の記述はおこなうが、よりくわしく知ってもらうためには、場合によっては既存の三冊の該当箇所の参照を要請することもあるだろう。このことは、叙述のエコノミーとして了解していただきたい。
また、わたしの[テキスト実践技法]は基本的にテキストエディタを使うものであり、そのためには原則的にわたしが日常的に使っている秀丸エディタを例にすることが多くなることもあらかじめお断りしておきたい。このエディタの使い方についてはわたしの『編集者・執筆者のための秀丸エディタ超活用術』(2005年、翔泳社)を参照していただければ、よりわかりやすくなるはずである。さらには、より一般的にパソコンを利用した編集技法を知っていただくためには、現在も未來社ホームページで連載執筆中の「知っていると得をする著者・編集者のためのパソコンTIPS集」(http://www.miraisha.co.jp/tips/)を覗いてみてほしい。なんらかのお役立ち情報が得られるはずである。
そしてなによりもここで読者として念頭においているのは、これまでもつねにそうであったように、実際に厄介な編集の仕事に苦労しながら専念している編集者たちであり、一部には編集に関心のある著者や印刷その他にかかわりのあるオペレーターたちであることは言うまでもない。このひとたちにとってわたしの経験や知識がなんらかの役に立てるようなら、こうしたものを書く意味もあることになる。
*なお、この「ファイル編集手順マニュアル」は未來社ホームページの「アーカイヴ」ページ(http://www.miraisha.co.jp/mirai/archive/)とココログブログの「出版文化再生ブログ」ページ(http://poiesis1990.cocolog-nifty.com/shuppan_bunka_saisei/)にて掲載していく予定である。必要におうじて予告なしに内容の書き替え、修正、追加、変更をおこなうことになろうが、ご寛恕いただきたい。以後、進行のなかでいろいろ方針等に変化が生じることもありうることもあらかじめお知らせしておきたい。